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広島地方裁判所 平成3年(ワ)397号 判決 1995年7月31日

主文

一  原告が、別紙物件目録一ないし三記載の各土地につき、二八万一〇〇〇分の五万九二七九の共有持分権を有することを確認する。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録一ないし三記載の各土地につき、平成元年一一月一日遺留分減殺を原因とする持分二八万一〇〇〇分の五万九二七九の所有権移転登記手続をせよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  原告が、別紙物件目録一ないし三記載の各土地につき、三一万分の六万六九三八の共有持分権を有することを確認する。

2  被告は、原告に対し、別紙物件目録一ないし三記載の各土地につき、平成元年一一月一日遺留分減殺を原因とする持分三一万分の六万六九三八の所有権移転登記手続をせよ。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、遺留分減殺を請求し、相続財産である不動産につき、共有持分権の確認と所有権移転登記手続を求めた事案である。

一  争いのない事実並びに書証及び弁論の全趣旨により認められる事実

1  平賀安太郎(以下「安太郎」という。)は、昭和六三年二月二五日に死亡したが、原告は安太郎の妻である(争いがない)。

2  被告は安太郎の四女である(争いがない)。

3  安太郎の相続人は、原被告のほか、安太郎の長男で昭和五六年一二月三〇日に死亡した平賀泰雄の子である古山妙子、黒川淳子、平賀雅範、平賀雅明、さらに、安太郎の長女市木利子、二女山田英子、三女國枝愛子、五女大川久美子である(争いがない)。

4  安太郎は、昭和六一年一月一〇日付け遺言書(以下「本件遺言書」という。)により、別紙物件目録一ないし八記載の不動産のうち、同目録一ないし七記載の不動産は、被告に二分の一、平賀泰雄の子ら四名に二分の一をそれぞれ相続させ、同目録八記載の不動産は、原被告及び平賀泰雄の子ら四名を除くその余の相続人四名に等分に相続させ、原告には、現金、預貯金等動産の一切を相続させる旨の遺言をした(甲三の7)。

5  被告及び平賀泰雄の子ら四名は、右相続にかかる不動産を、別紙物件目録一ないし四記載の不動産を被告が取得し、同目録五ないし七記載の不動産を平賀泰雄の子ら四名が取得することとして分割した(甲一の1ないし4、二の1・2、弁論の全趣旨)。

6  その後、別紙物件目録四記載の建物は、取り壊された(弁論の全趣旨)。

7  別紙物件目録一ないし三記載の各土地につき、被告を所有者とする所有権移転登記がなされている(甲一の1ないし3)。

8  原告は、被告及び平賀泰雄の子ら四名を相手方として、平成元年九月二五日、広島家庭裁判所に遺留分減殺行使による物件返還請求に関する家事調停の申立てをしたところ、平成元年(家イ)第八二八号家事調停事件として係属し、平成元年一一月一日、第一回調停期日が開かれた(甲九、一七)。

二  主たる争点

1  本件遺留分減殺請求は無効か

原告は、「平成元年(家イ)第八二八号家事調停事件において、平成元年一一月一日、第一回調停期日が開かれ、遅くとも同日までに、原告の被告に対する遺留分減殺の意思表示が到達した。」と主張する。

これに対し、被告は、「遺留分減殺請求は、遺言の一体性ないし受遺者間の公平を図る見地から、遺留分を侵害している受遺者全員に対してなすことが必要であるところ、原告は、被告及び平賀泰雄の子ら四名に対して遺留分減殺請求をしたのみで、その余の相続人に対しては右請求をしていないから、右遺留分減殺請求は無効である。」と主張する。

2  本件遺留分減殺請求権が時効消滅したか否か

被告は、「(一)原告は、安太郎の死亡した昭和六三年二月二五日には、相続の開始及び本件遺言書の内容を知っていたのであるから、それから一年を経過したことにより、原告の遺留分減殺請求権は時効消滅した。(二)仮に、原告が安太郎の死亡した昭和六三年二月二五日には本件遺言書の内容を知らなかったとしても、原告は、本件遺言書検認時である平成元年四月一三日には本件遺言書の内容を知ったのであるから、それから一年を経過したことにより、原告の遺留分減殺請求権は時効消滅した。」と主張する。

3  本件遺留分減殺請求が有効である場合、原告が被告に対して返還を求め得る相続財産の割合

原告は、「相続開始時における被告が取得した不動産の価格は三億一〇〇〇万円、平賀泰雄の子ら四名が取得した不動産の価格は三億〇七〇〇万円、原被告及び平賀泰雄の子ら四名を除くその余の相続人四名が取得した不動産の価格は三億六六八〇万円(ただし、敷金の預り金債務三一四万四〇〇〇円を控除すると、残価格は三億六三六五万六〇〇〇円となる。)であり、原告が取得した現金、預貯金等の合計額は八六九五万九〇〇〇円であるから、遺産の合計額は一〇億六七六一万五〇〇〇円となり、原告の遺留分は二億六六九〇万三〇〇〇円となる。そこで、被告の遺留分超過額を基準に被告に対し返還を求め得る持分割合は、三一万分の六万六九三八となる。」と主張する。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

前記第二の一の8で判示したとおり、原告が、被告及び平賀泰雄の子ら四名を相手方として、平成元年九月二五日、広島家庭裁判所に遺留分減殺行使による物件返還請求に関する家事調停の申立てをしたところ、平成元年(家イ)第八二八号家事調停事件として係属し、平成元年一一月一日、第一回調停期日が開かれたことが認められるから、遅くとも同日までに、原告の被告に対する遺留分減殺の意思表示が到達したものと認めることができる。

これに対し、被告は、遺留分減殺請求権は、遺留分を侵害している相続人全員に対して行使されなければ、その効力を有しないと主張し、その根拠として、遺言の一体性ないし受遺者間の公平を挙げる。

しかし、遺留分減殺請求権が、遺留分を侵害された者の「権利」として構成されていることからすると、その第一次的な目的は、受遺者間の公平を図ることよりも、遺留分を侵害された者を保護するところにあると解されるから、民法に特別の制約が定められていない限り、右権利の行使については、もっぱら遺留分権利者に委ねられていると解するのが相当である。

そして、民法は、遺留分減殺の方法については、その順序や割合等につき規定を設けているが、遺留分減殺請求権行使の相手方については、特別な規定は設けられていない。

したがって、すべての受遺者の遺留分侵害額を基準に按分計算された減殺割合に基づいている限り、遺留分を侵害している相続人のうちの誰に対して減殺請求するかは、遺留分権利者の自由であり、遺留分を侵害している相続人の一部に対して減殺請求がされなかったからといって、当該遺留分減殺請求が無効となるものではない。

二  争点2について

1  まず、原告が、安太郎の死亡した昭和六三年二月二五日の時点で、本件遺言書の内容を知っていたか否かにつき判断する。

甲三の2・8によれば、本件遺言書は、広島家庭裁判所において検認手続がされた平成元年四月一三日の時点では、封筒に収められており、未だ開封されていなかったことが認められる。

また、証人新谷昭治の証言によれば、平賀家と親しく付き合っていた新谷弁護士は、本件遺言書の内容につき、安太郎自身から相談を受けて知っていたが、本件遺言書をめぐって、将来原告と被告との間に紛争が起こることを危惧し、本件遺言書の存在を原告及び被告の姉妹らに知られまいとひた隠しにしていたことが認められる。

さらに、原告本人尋問の結果によれば、安太郎は、生前、原告に対し、本件遺言書の内容について話したことはなかったことが認められる。

以上によれば、原告が、安太郎の死亡した昭和六三年二月二五日の時点で、本件遺言書の内容を知っていたとは認められず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

2  原告は、本件遺言書検認時である平成元年四月一三日に本件遺言書の内容を知ったことを訴状において認めている。

しかし、前述のように、遅くとも平成元年一一月一日までに、原告の被告に対する遺留分減殺の意思表示が到達したものと認められ、したがって、原告は、本件遺言書の内容を知ってから一年以内に遺留分減殺請求権を行使したことになるから、原告の遺留分減殺請求権が時効により消滅したとする被告の主張は理由がない。

三  争点3について

前述のとおり、原告のした遺留分減殺請求は有効であるから、原告が被告に対して返還を求め得る相続財産の割合につき検討する。

甲五によれば、平成元年(家イ)第八二八号家事調停事件において、相続財産である不動産の相続開始時における価格の鑑定が行われたことが認められるが、右鑑定は土地の鑑定評価方法として原価法を採用しているところ、土地は、埋立てなどの場合を除き、原価をかけて造り出したものとはいえないから、土地の鑑定評価方法として原価法を採用するのは妥当でない。したがって、甲五によって、相続財産である不動産の相続開始時における価格を認定するのは相当でない。

当裁判所における鑑定の結果によれば、相続財産である不動産の相続開始時における価格は、以下のとおりであると認められる。

別紙物件目録一ないし三記載の不動産(被告取得分)

二億八一〇〇万円

同目録五ないし七記載の不動産(平賀泰雄の子ら四名取得分)

二億七九〇〇万円

同目録八記載の不動産(原被告及び平賀泰雄の子ら四名を除くその余の相続人四名取得分)

三億九〇七二万円

ただし、甲八によれば、別紙物件目録八記載の不動産については、敷金の預り金債務三一四万四〇〇〇円(千円未満切捨て)があるから、これを控除すると、残価格は三億八七五七万六〇〇〇円となる。

また、甲八によれば、原告が取得した現金、預貯金等の合計額は、八六九五万九〇〇〇円(千円未満切捨て)であると認められ、遺産の合計額は一〇億三四五三万五〇〇〇円となり、原告の遺留分は二億五八六三万三〇〇〇円、安太郎の子らの遺留分は四三一〇万五〇〇〇円となる(千円未満切捨て)。

そこで、原告が被告に対して返還を求め得る持分割合を計算すると、以下のとおり、二八万一〇〇〇分の五万九二七九となる。

原告の遺留分不足額=一億七一六七万四〇〇〇円

258,633,000-86,959,000=171,674,000

被告の遺留分超過額=二億三七八九万五〇〇〇円

281,000,000-43,105,000=237,895,000

平賀泰雄の子ら四名の遺留分超過額=二億三五八九万五〇〇〇円

279,000,000-43,105,000=235,895,000

原被告及び平賀泰雄の子ら四名を除くその余の相続人四名の遺留分超過額=二億一五一五万六〇〇〇円

387,576,000-43,105,000×4=215,156,000

被告減殺額=五九二七万九〇〇〇円

171,674,000×237,895,000÷(237,895,000+235,895,000+215,156,000)=59,279,000(千円未満切捨て)

四  結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、別紙物件目録一ないし三記載の各土地につき二八万一〇〇〇分の五万九二七九の共有持分権を有することの確認と右各土地につき持分二八万一〇〇〇分の五万九二七九の所有権移転登記手続を求める限度で理由がある。

(別紙)

物件目録

一 所在 広島市南区松川町

地番 八七〇番二三

地目 宅地

地積 一二〇・七三平方メートル

二 所在 広島市南区松川町

地番 八七〇番二四

地目 宅地

地積 一二〇・三六平方メートル

三 所在 広島市南区松川町

地番 八七〇番三三

地目 宅地

地積 一二・一九平方メートル

四 所在 広島市南区松川町八七〇番地二三、八七〇番地二四

家屋番号 八七〇番二三

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 八五・九五平方メートル

二階 五九・五〇平方メートル

五 所在 広島市南区松川町

地番 八七〇番二一

地目 宅地

地積 一一九・七三平方メートル

六 所在 広島市南区松川町

地番 八七〇番二二

地目 宅地

地積 一三三・五五平方メートル

七 所在 広島市南区松川町八七〇番地二一

家屋番号 八七〇番二一

種類 居宅

構造 木造セメント瓦葺二階建

床面積 一階 五七・五五平方メートル

二階 六七・九〇平方メートル

八 土地 広島市中区東平塚町一番四

宅地 五一二・五三平方メートル

一棟の建物 広島市中区東平塚町一番地四

建物の番号 ライオンズマンション京橋川

鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一四階建

専有部分

1 家屋番号 東平塚町一―四―一〇一

種類 店舗

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 一階部分 六四・三六平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の六八五七

2 家屋番号 東平塚町一―四―一〇二

種類 車庫

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 一階部分 一九・三二平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の二〇八九

3 家屋番号 東平塚町一―四―二〇一

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 二階部分 五四・二二平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の五八五九

4 家屋番号 東平塚町一―四―二〇二

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 二階部分 九三・九〇平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の一一〇五〇

5 家屋番号 東平塚町一―四―二〇三

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 二階部分 四三・九七平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の四六八三

6 家屋番号 東平塚町一―四―二〇四

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 二階部分 二一・六〇平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の二四四五

7 家屋番号 東平塚町一―四―二〇五

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 二階部分 五四・四二平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の五七五四

8 家屋番号 東平塚町一―四―三〇一

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 三階部分 六二・七一平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の六七二七

9 家屋番号 東平塚町一―四―三〇二

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 三階部分 三九・六二平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の四三〇二

10 家屋番号 東平塚町一―四―三〇三

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 三階部分 五四・三七平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の五八五九

11 家屋番号 東平塚町一―四―三〇四

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 三階部分 四三・九七平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の四六八三

12 家屋番号 東平塚町一―四―三〇五

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 三階部分 二一・六〇平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の二四四五

13 家屋番号 東平塚町一―四―三〇六

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 三階部分 五四・四二平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の五七五四

14 家屋番号 東平塚町一―四―四〇一

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 四階部分 六三・一三平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の六七二七

15 家屋番号 東平塚町一―四―四〇二

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 四階部分 三九・六二平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の四三〇二

16 家屋番号 東平塚町一―四―四〇三

種類 居宅

構造 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根一階建

床面積 四階部分 五四・八〇平方メートル

敷地権 二八万八一三二分の五八五九

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